PSN方式でSSBを発生させるためのAF PSNを試作した.
PSN方式のSSBジェネレータは上図のような構成であるが,大概AF PSNの実現がネックとなる.
アナログ回路でAF PSNを実現する方法としては,ナガード型PSN,多段のオールパスフィルタ,PPSNなどが知られている.
これらは,性能が十分でなかったり,回路規模が大きい,部品定数の精度が要求される,など少々難しいところがあり,さらにアナログであるが故,環境(周囲温度など)の変化による特性の変化にも気を付ける必要がある.
そこで今回はAF PSN をディジタル信号処理で実現することにした.これは近年よく見かけるSDRと同様なものである.
まず,SSBの発生方法から確認していく.SSBの生成方法はシンプルに考えれば下図のとおりである.
周波数シフトは,AF PSNの後の直交変調器で行われるので,
結局AF PSNとは,AF信号の負(あるいは正)の周波数成分を除去するものである.
ならばバンドパスフィルタ(BPF)で実現できそうだが,フィルタの周波数特性は,下図の上段に示すように,正の周波数領域と負の領域で対称なものしか実現できない(実係数フィルタの場合).
しかしながら,フィルタの係数を複素数にすれば(複素係数フィルタ),上図下段に示すような非対称な周波数特性をもったフィルタが実現できる.
複素係数フィルタを用い,信号を複素数表現すれば,SSB生成の流れは下図のようになる.
今回はこの複素係数フィルタを,dsPIC33FJ64GP802 を用いディジタル信号処理で実現してみた.下図のように,複素係数フィルタの出力の実部がAF PSNの0°出力,虚部が90° 出力に相当する.
複素係数フィルタの構成は,512Tap FIR フィルタとした.
フィルタの周波数特性(設計目標)は下図のとおり.
+300Hz~+3kHzのバンドパスで,負の領域はすべて阻止する.
これを逆フーリエ変換し,FIRフィルタの係数を求めた.
サンプリング周波数は,使用するdsPICの性能により 約10kHz に設定した.
フィルタ係数(実部:R0 – R511)
フィルタ係数(虚部:Q0 – Q511)
複素係数フィルタのプログラムのソースコード Source code
dsPIC周辺の接続は下図のとおり.
動作確認の結果を以下にまとめておく.
入力200Hz
入力300Hz
入力1000Hz
入力2000Hz
入力2900Hz
入力3000Hz
これらの結果を見る限りは使い物になりそうな感じがする.
部品選別や調整などなしに,プログラムを書き込みさえすればこれと全く同じ結果が得られる.
あとは実際にSSBジェネレータにしたときにどのような品質の信号になるか,確認が必要だろう.