AM demodulation (SDR using dsPIC) (2)

Direct Conversion 方式でAM復調がうまくいった… 確かにほぼうまくいったのだが,問題があることがわかった.
ローカル信号のリークが周波数によっては予想以上に大きくなるところがあり,アンプをDC結合したためにリークの直流成分でアンプが飽和してしまい,その周波数では受信不能となる.飽和しないレベルであれば動作はするが,ダイナミックレンジが狭くなる.
直前の記事で,「直交ミキサでベースバンドに変換するDC方式はなかなか難しい」と書いた通りになった.

まず,アンプをAC結合に戻し直流による飽和が起こらないようにした.

次に,ローカル発振(VFO)周波数 ωc を受信周波数 ωm より ωi  低くして,受信したAM信号の周波数を ωi に変換し,これを増幅した後AD変換してdsPIC に取り込むようにした.
今回 ωi = 2 π 12.5kHz としている.

AM_demod2.jpg

その後信号処理で,上図に示すようにベースバンドに変換している.
(乗算器が4個必要なのは,複素数同士の掛け算のため)
LPF以降は前回と同じ.

dsPIC33FJの能力の限界に近い処理量のようだが,AM受信自体は前回と同様問題なくできている様子.受信周波数を500kHzから54MHzまで変えてみたが,受信できなくなる周波数は無いようので,しばらくこれで動作確認をしてみる.

AM demodulation (SDR using dsPIC)

dsPICによるSDRでSSBやCWはうまく受信できている.これに加えてAMモードも実装したい.AM受信はSSBモードでもできるが,キャリア周波数を完全に合わせないと受信信号のピッチが変わってしまう.会話なら問題も少ないが音楽は不協和音になってしまって聞きづらいので,やはりAMモードが必要だと思う.

AMの復調をするには,下図のように,IchとQchをそれぞれ2乗して加算したあと平方根をとればよい.

AM_demod

理屈は簡単だが,直交ミキサでベースバンドに変換するDC方式だと,キャリア周波数が0Hz(直流)に変換されるので実際にはなかなか難しい.なので多くは,キャリア周波数を0Hzではなく10kHzなどに変換し,それを信号処理してAM復調をする.

ただ今回使用しているdsPICの性能にあまり余裕がないので,上図のとおりDC方式にする.

LPFの出力は次式となる.eq1_2

AMの場合,A + m(t) > 0 なので,

eq3

これの直流分 A/2 をカットすれば復調完了で,式(3)にはキャリア周波数とローカル周波数の差の要素は含まれないので,チューニングのずれで復調される信号ピッチが変わるということはない.

それはいいのだが,実際はミキサの出力にはローカル信号のリークに起因する直流成分が加算される.DBMにしてもリークを0にすることは現実的には困難で,また厄介なことにリークの量は一定ではなく,周波数によって変化する.

リークは直流として生じるので問題なさそうに思えるが,そうではない.
リーク成分を vi, vq として,それらを考慮した場合のLPFの出力を I’ , Q’ とすれば,

eq4_5

このとき,出力は,

eq6

となる.面倒なのでこれ以上の式の展開はしないが,明らかに出力に歪が生じてしまう.チューニングがあっている(ωc=ωm)のときは歪だけだが,チューニングがずれると式(6)の第3,4 項によってビート成分とその高調波も出てくる.

結局,リーク成分vi, vq を除去することが必須であることがわかる.ただ厳密にはそれは不可能なので,条件をつけて譲歩するしかない.

その条件は,「厳密にチューニングがあう(ωc=ωm)ことはない」ということ.

もし ωc=ωm だったら,

eq7_8

となるが,残念なことに第1項と第3項はどちらも直流で分離不可能.

仮に式(7),(8)から直流分を除去すると次式となり,

eq9_10

出力は次式となる.

eq11

元の信号を全波整流したものとなってしまって復調できない
(  m(t) が正負の値をとることに注意).
AMの場合,A+m(t)が常に>0.そうなるようにAが足されていることに大きな意味がある.

 

…ということで,ωc=ωmのときはあきらめて,厳密にそうなることは稀だということに期待する.

ωc≠ωmならば,式(1), (2)をみればわかるように,I, Q は,周波数差|ωc – ωm|に相当する周期をもつ交流となる.リーク込みのLPF出力は式(4), (5) だが,これの時間平均をとれば,I,Qはともに0に収束し最終的に vi, vq のみとなって,リークによる直流分が得られる.得られた値を信号処理時にI, Q信号から引けばよい.

今回,平均処理を2~3秒間の移動平均としてみる.例えば,平均時間2秒なら,1/2=0.5Hz以上周波数がずれていればよい.AMで0.5Hz以内にゼロインするのは難しいと思うので実用的にはOKだろう.たまたま合ってしまう可能性はゼロではないけど,受信信号とローカル信号は全く無相関なのでその状態が長く続くとも思えない…(と希望的観測しておこう).最終的に約2.6秒とした.

ここまで書いて気付いたが,これってカットオフ周波数の非常に低いHPFで直流をカットしているのと同じことだった.ただカットオフ周波数が0.5Hzとかになるので,容量がものすごく大きなCが要る(10000uFとか)し,カットオフ周波数の調整も面倒そうなので,信号処理でやる意味はありそう.

実際の動作の様子はこちら( https://youtu.be/txrccQwB3Pc )

チューニングのずれによるピッチの変化がなくなりAMらしくなった.少しビートが残っている感じがするが,まあいいんじゃないかと思う.むしろチューニングの目安となっていいかもしれない.

ついでにAGC処理も追加しておいた.
ちなみにスピーカのすぐ上に見える回路はアナログでAGCをやろうとした残骸.
信号処理でAGCがうまくいったので使っていない.
また,直流分も通すためにミキサからAD変換までの回路をDC結合に変更した.

そろそろ基板におこせる段階かな.
その前にFMもやってみようか…

SDR using dsPIC33FJ64GP802 (2)

レシーバをテストしていて気づいたのだが,RF入力のレベルが小さくなっていくと,あるレベル(しきい値)でノイズゲートが掛かったようにいきなり無音となる.さらによく調べてみたら,しきい値付近のレベルだと信号やノイズがとぎれとぎれになってブツブツという音がする.どうもAD変換時の量子化が原因のようだ.しきい値はAD変換の量子化レベルであって,dsPICの場合,12bitなので,3.3V/4096=805 uV.
これ以下の変化は検知できず,一定値の信号として処理され結果として無音になる.また,これを超えるか超えないか微妙なレベルだと変なノイズが出る.

量子化レベル以下の変化を取り込む方法として,よく知られているものとしてはディザー信号を重畳させる方法がある.

つまり,量子化レベルより十分大きな振幅を持つ信号(ディザー信号)を目的信号に加え,量子化レベルを超えさせる.ディザー信号は,目的信号と周波数帯域が重ならないスペクトルを持つ信号とする(一般的には,目的信号より高い周波数領域に成分を持つノイズなど).

目的信号+ディザー信号をAD変換で取り込んだら,信号処理(フィルタ)でディザー信号の成分をカットすればよい.

数値計算で確認してみた結果を以下に.

入力信号は振幅0.1,周波数800Hzとする.

nodither
+/-0.5を量子化の区切りとする.
上段のグラフのように入力信号の振幅が0.1の場合,AD変換器で量子化されると中段のグラフのように一定値0となってしまい入力信号の情報は失われる.当然スペクトラムも下段のとおり全域で0となる.

次に,振幅50,周波数6.25kHzの正弦波をディザー信号として加えてみる.

dither

ディザー信号を入力信号に重畳すれば,量子化されても入力信号の情報は失われないことが
スペクトルをみればわかる.
不要な6.25kHzは,デシメーションフィルタがカットしてくれるので問題ない.

 

もう一つの例として,入力信号が量子化レベルをぎりぎり超える程度の振幅(0.55とした)を持つケースを以下に示す.

nodither2
入力信号は取り込めているが高調波成分が生じている.量子化された波形をみれば当然.

 

ディザー信号ありの場合.

dither2

こちらの方が,高調波成分が少なく,低ひずみで信号が取り込めているのがわかる.

 

実回路で確認.
下図のとおり,DACのLポートから6.25kHzを出力し,オペアンプの入力に加えた.

dither_circuit1

とりあえず,空中配線で…

20200620_225906

信号レベルが低くても無音となることはなく,変なノイズも発生しなくなった.

 

SDR using dsPIC33FJ64GP802

dsPICで受信用のAF PSN試作して動作確認まで行っていたが,それを使って実際に受信機を組んでみた.

Source code ,  Circuit diagram

動作の様子 Youtube

今のところ,AGCはもちろん,RFアンプも入力のフィルタもないが,それなりにうまく動作しているようなので,きちんとした受信機に仕上げてみようと思う.